瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
「ただ、()でたいだけだ」

 そのままおもむろに唇が重ねられ、レーネは目を閉じる余裕もない。とっさに顎を引きそうになったが、再度口づけられる。

 柔らかく唇を()み、時折舌で刺激されながら唇が離れるか離れないかを幾度となく繰り返しキスは続けられた。

 強引だけれど優しくて、戸惑いしか起こらない。それを表すかのように中途半端に彷徨(さまよ)わせているレーネの手をクラウスが取った。

 ゆるやかに指が絡め取られて握られる。

 重ね合う唇から、捕まった手のひらから、相手の温もりが伝わってくる。それは次第に自分の中で熱量が増幅し、じりじりと焦がされていく。

 そっと解放され、一番に感じたのは物足りなさだ。そんな自分にレーネはすぐに嫌気が差す。

 クラウスは繋いだままのレーネの手を己の口元に持っていくと、彼女の指先に軽く口づけた。

 悔しいが、どんな仕草も様になる。胸の鼓動が早いのは、自身のペースを乱されているからだ。それだけの理由に他ならない。レーネは必死に言い聞かせた。

 思考を内側に巡らせていると、突然抱きしめられる。密着する部分が増えたかと思えば、続けて首筋に口づけが落とされた。

「やっ」

 柔らかく湿った感触は独特で、こそばゆさで反射的に身をすくめる。しかし体勢が体勢なだけに逃げられない。

 足をばたつかせても無意味で、その間もクラウスはレーネの白い首筋にゆるやかに唇を這わせた。
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