瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
 団服には闇と気高さを表す黒を基調とし、光と礼節を示す赤がラインと裏地に取り入れられている。

 かけられているマントは漆黒で、さらに肩章、飾緒、フロント部分にシンメトリーに並ぶ(ボタン)は、すべて金で装飾されていた。

 胸元に施されている団章は黒の盾に赤の十字、中央部には、この国の誰もが知っている王家の象徴、双頭の鷲が描かれている。国の成り立ちの伝承から初代王とフューリエンを表したものだ。

 おかげでアルント王国では『二』という数字は縁起がいいとされ、これらが起因しアルノー夜警団のトップも双璧元帥としてふたりの人間が務めている。

 今はルディガーともうひとり、スヴェンがその任を担っていた。

 国王の斜め前に座っているふたりは、それぞれ複雑な面持ちをしている。この状況をよく思っていないのは明白で、それでいて互いに事情は違っていた。

 ルディガーはスヴェンを含め、クラウスとは同年代で幼馴染みであり、彼が国王になる前から同じ師に剣を習うなど親しくしている。

 短い(とび)色の髪と同系色のダークブラウンの瞳は、彼の性格も相まって穏やかな印象を与える。整った顔立ちでありながら親近感が湧きやすく好青年という言葉がぴったりだった。

 ルディガーとしては、自分の立場を(わきま)えつつクラウスとは気心が知れている。一方、自分たちの祖父ほど年の離れているバルドはどうも苦手だった。

 朗らかで誰とでもすぐに打ち解けられるのが自身の武器だとは思っているが、彼には通用しない。

 それは年齢差や立場だけが起因しているわけではない。いつも仏頂面で眼光は鋭く、伸びた白い眉と(ひげ)が気難しい表情に拍車をかけた。口数も少なく、なにを考えているのかまったく理解できない。
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