瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
 迎冬会が無事に開幕し、外の静寂さとは真逆に会場は人の熱気と喧噪(けんそう)に包まれている。

 ゲオルクは主に年頃の娘を連れた者たちに囲まれ、その周りには、あわよくば自身を売り込もうと野心溢れる輩たちがひしめいていた。

 彼に紹介されている女性陣も、自信に満ち自らゲオルクの元へと希望する者もいれば、不本意で悲痛さを浮かべている者など様々だ。

 ゲオルクはどんな女性を選ぶのか。その考えに至りレーネは思考を切り替える。そこまで口を出す権利は自分にはない。

 壁の花となっていたレーネだが、そこにひとりの男が近づいてきた。

「一曲、お相手いただけますか?」

 恭しく胸に手を添え、頭を下げた男はレーネと同じく仮面を身につけている。一瞬、躊躇ったレーネだがすぐ相手の手を取る。

 男はレーネの手を引いて他のダンスを楽しむ人々の輪に素早く溶け込んだ。

「久しぶり、カイン。わざわざ来てくれたんだ」

 レーネが小声で話しかけると。仮面の奥の茶色い瞳が細められる。

「お変わりありませんか、神子さま」

 男の正体はカインだった。どうやって貴族の男性になりすましたのかは謎だが、その所作は手慣れたものだ。レーネの腰に手を回し彼女をしっかりとエスコートする。

 この計画を唯一知っている者であり、レーネのよき理解者だ。村から脱出するのも彼の手助けがあってこそで、村では神子は行方不明という話になっている。

 ゆったりとした音楽に合わせスウィングさせながらも他者との距離を見極め、ふたりは会話する。

「そろそろ決着はつけられそうですか?」

「……ええ」

 妙な間合いにレーネの揺らぎを見抜いたカインはするどく切り込む。

「情でも移りましたか?」

 レーネは返答に困り、うつむき気味になる。なにをこんなにもはっきりせずにいるのか。これくらいは予想の範囲内だったはずだ。
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