瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
「勝手だな」

 ゲオルクは複雑そうに顔を歪め、レーネの白い首に手を欠けた。突然の接触に身をすくめそうになるが、ゲオルクは手を離さない。

「人の事情には首を突っこむくせに、自分は絶対に踏みこませない。そばにいて、こうして触れていてもけっして俺のものにはならない」

 低い声色と飲み込まれそうな深い色を宿した瞳にレーネは金縛りにあったかのようだった。瞬きひとつできず、首に回された手は触れられているだけなのに呼吸ができない。

 唇が触れるかどうかの距離までゲオルクはレーネに顔を近づける。

「お前のそういうところが……憎くて愛しくて堪らないんだ」

 言葉とは対照的に声は切なげでレーネは目を見開く。ゲオルクは硬直しているレーネの首筋に顔を埋め、喉に唇を押し当てた。

 勝手なのはどちらなのか。獰猛な瞳で射抜くくせに、触れ方はひどく優しい。

 抵抗しないと。ここから逃げ出さなければ。

 もうひとりの自分が必死に訴えてくる。頭ではわかっているのにどうして行動に移せないのか。

 肌に触れるゲオルクの手が、添わされる唇が異様に熱くて、胸が詰まる。不快さを感じない自分が情けない。

 うっすらと視界が涙の幕で滲んだそのとき、ゲオルクの動きが止まった。そしてレーネの頬にて添え心配そうにこちらを窺う。

「レーネ」

 目をしっかり合わせ名前を呼ばれ、レーネは今度こそ泣き出しそうになった。

 ゆるやかに距離を縮められ、レーネはぎこちなく目を閉じる。続けて唇が重ねられ、長くて甘い口づけが始まった。

 心の中で自分を罵倒しても、結局は彼を拒めない。

 だって初めてなの。私に名前を与えてくれて、こんな外見にも関わらず普通に接してくれたのは。
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