俺はお前しか好きになれない。
「やっと見つけた」
息を切らした誰かが私の隣に座った。誰かって見なくても声だけでわかってしまうし、きっと隣にいるのは、咲夜に違いない。
「風邪引くぞ」
私は泣いている顔を見られたくなくて、カバンに顔を押しつけたままだけれど、どうして、どうして、と疑問が生まれる。
自惚れじゃなければ私のことを探してきてくれたということだろう。息を切らしてまで私を探してくれたということだろう。
「あそこで名前呼んだのそんなに嫌だった?」
そこじゃない。名前呼ばれたのは全然嫌じゃなかった。だけど伝わらない。
「ごめん、好きでもないやつに名前呼ばれてもうれしくないよな……」
「すき……じゃない?」
「うん、だからごめん」
すきじゃないと思われても仕方がないほどの態度をとってきた。可愛い言葉も仕草もなくて、いつも意地を張っていたけれど、本当にそう思っていたなんて知らなかった。
伝えなかったから、伝えられなかったから、咲夜は勘違いをしてしまったのだろうか。
「あ……かね?」
驚いたきみの声が聞こえて、自分でも大胆だなって思うけれど、いまなら伝えられると思った。いましかないと、唐突に思っていた。
私のせいでここからすれ違っていたなんて知らなくて、むしろ私だけが彼のことを好きだと思っていた。
私が咲夜に抱きついて、顔は見られたくなくてぎゅーっと顔を咲夜の胸に押しつける。