一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る
車の前に立っていた彼女は、後部座席の方に回り込んでくると雅臣側の窓をコツコツとノックする。それは彼の定位置を完全に把握しているような仕草だった。雅臣がパワーウィンドウを下ろすと、外に立つ彼女の整った顔がより鮮明になる。
「ねえ雅臣。結婚するって聞いたんだけど、本当?」
胸をくすぐるような甘い声には聞き覚えがある。それからはっとした。どこかで見たことがあると思っていたら、彼女は私が二條家に忍び込んだ日に、庭園の隅で雅臣とキスをしていた女性だ。
ドクリと、心臓が嫌な音を立てる。
「ああ、本当だ」
雅臣が静かな声で答えると、彼女はきれいに整えられた眉をわずかにひそめた。
「なによそれ。どういうこと?」