一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る
『では失礼します』と言って私を促しながら部屋を出ようとした雅臣を、彼の母である清香さんが引き留めたのだ。『少しお茶でもしましょう』と。
手が震えないようにこらえながら、紅茶をテーブルに置いた。
沈黙が痛い。
当主と次男は無言のままだし、清香さんは私と目が合えば微笑んでくれるものの、なにかに遠慮しているようにあまり口を開かない。
自分からなにか話題をふらなきゃとは思うけれど、いったいなにをどこまで話していいのか見当がつかなかった。
本当はこの家の嫁としてふさわしくないこととか、母が入院していることとか、雅臣とは契約上の関係だとか。言ってはいけないことが多すぎて、結局黙っていることしかできなかった。
沈黙の霧が立ち込めるなか、私はそっと目線を動かす。
斜め前に座っている雅臣のお父さん、二條公親。