一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る
時計の針がコチコチと時を刻んでいく。
手持無沙汰で紅茶を口にしてばかりだから、カップの中身がどんどん減っていた。空になったらこの時間から解放される、というのなら喜んで飲み干すけれど、今のところその気配はない。せめて張りつめたような空気が和らいでくれたら……。
ものまね芸でもしたら笑ってくれるかな、と妙な方向に思考が及んだとき、出入口の扉が勢いよく開いた。
「雅兄!」
視界のなかで、薄いブルーのスカートが翻る。慌てた様子で現れたのは、若い女の子だった。
透け感のあるレースのワンピース姿で、外国のモデルのように背が高く、顔が小さい。長いストレートの黒髪を揺らしながらソファに近づいてくる彼女に続いて、もうひとり、同じ年頃の男の子が姿を現した。
「伊都、待てってば」