一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る

 すたすたと扉に向かって歩いていく背中をぽかんと見送ってから、慌ててソファを立った。まだ清香さんが残っているのに、と目をやると、彼女はほんの少し困った顔で微笑みながら、なにかを心得ているように小さくうなずいた。違和感を覚えつつもぺこりと頭を下げ、雅臣を追ってリビングを後にする。

 長い廊下を進みながら、私は首をかしげる。彼の家族と顔合わせをするという重大で気が重いミッションをクリアしたというのに、なんとなくすっきりしない。

 目の前の広い背中は、振り返るそぶりも見せずに進んでいく。

 ふうっと小さく息をつく。伊都さんと善くんがやってくるまで、家族でお茶を飲んでいるとは思えないほど空気が重かった。まるで酸素が凍りついていたみたいに冷たくて、息がしづらかった。

 そこまで考えてからはっと思い出す。

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