一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る

「ねえ雅臣、そういえばお兄さんがいるんでしょ? さっきは姿が見えなかったけれど」

 小走りに駆け寄ると、彼は横目でちらりと私を見下ろした。

「兄貴なら」

晴兄(はるにい)なら、仕事で海外に行ってるわよ」

 背後から聞こえた声にぎくりとして振り返る。私たちのうしろから、ブルーのおしゃれなワンピースを着た女の子が付いてきていた。

「伊都さん!」

「雅兄の家に戻るんでしょ? 私も行く」

「なんでだよ」

 面倒そうに口にする雅臣を気にするでもなく、彼女は横目で私を見る。

「だってせっかく雅兄の婚約者に会ったのに、まだ全然話をしてないもの」

 釣り上がり気味の冷たくもうつくしい瞳にじろりと見下ろされ、心臓が不穏な音を立てた。もしかして、妹チェックはまだ終わっていないのだろうか。

「確認したいこともあるし」

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