一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る

 さっさと出て行ってしまう背中に手を伸ばしたけれど、リビングのドアは無情にも音を立てて閉まってしまった。

 ほどほどにって、なに?

 怖すぎる……。

 ソファの横に立ち尽くす私を、伊都さんは高貴な猫みたいにつんとした顔で見上げる。

「とりあえず、お茶、淹れてよ」

「は……はい」

 紅茶の美味しい淹れ方を楓さんから習っておいてよかった。心から思いながらキッチンで葉っぱを蒸らす。ちらりと見ると、伊都さんはリビングに置きっぱなしのイーゼルを不思議そうに見つめている。

「あの、さっき言ってた晴兄って、ご長男のことですよね?」

 紅茶のポットとカップをリビングのテーブルに運んでいくと、彼女は「そうよ」と言って、吹き抜けの天井を見上げた。

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