一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る
下りてきた形のいい唇を、そっと受け入れる。
自分の心臓の音を感じ取れるくらい、やわらかくて、静かなキスだった。
唇が離れると、彼はふたたび私の背中に腕を回して抱きしめた。頭を撫でる手つきにやさしさを感じて、私は瞼を下ろす。
まだ馴染めていない大きな邸宅に、身の丈に合わないような高級なソファ。これまでに接点すらなかった上流階級の人たちとの交流。
息をしているだけで体がこわばるような生活のなかで、雅臣といると不思議と心が落ち着く。
こうやって彼の匂いと体温に包まれていると、胸を騒がせる荒波がゆっくり引いていき、気持ちが安らいでいく。
どうしてだろう。
傲慢御曹司だと思っていた彼が、なんだかんだで優しいから?
遊び人で女性にだらしないと思っていたのに、本当は誰かをずっと思い続けている一途な人だから?
ほどけるような穏やかな気持ちの奥にわずかな痛みを覚えながら、私は固い胸に額をうずめた。私の髪を撫でる大きな手の感触。どこか懐かしくて、不思議と涙が出そうだった。