一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る
政治家や芸能人、海外のVIPしか利用しないという豪華な病室は、病棟最上階の二十階、エグゼクティブフロアにある。
ここに上がってくるだけでいくつものセキュリティを潜り抜けてこなければいけなかった。そんな病室を一般人が借りられるわけがない。母には雅臣のことを『ちょっとお金に余裕のある人』くらいにしか伝えていないから、ここに転院できた理由は病院長と知り合いのためと説明してあった。
「まさに天と地って感じ」
空きベッドのあった寒々しい六人部屋を思い出しながら地上にへばりついているビルを眺めていたら、ふと思った。
「そういえば、ここって高いところだけど、大丈夫なの?」
ソファに座ってお茶を飲んでいる雅臣を振り返ると、彼は嫌そうに眉をひそめた。
「だから、俺は高所恐怖症じゃないって言っただろ」