一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る
「……おとなしく高いところが苦手って認めればいいのに」
「くどい。同じことを何度も言わせるな」
「まったく素直じゃないんだから」
息をつくと、くすくす笑う声が耳に入った。
母が寝ているベッドは奥の壁際に置かれていて室内を見通せる。私たちに交互に視線を向けると、彼女はうれしそうに微笑んだ。
「仲がいいのね」
どこが、と言いかけて口をつぐんだ。母は私と雅臣が好き同士で結婚すると思っているのだから、ここで否定するのはおかしい。
「ま、まあまあよ」
「はい、とても」
声がかぶさって目を向ける。どうしても刺々しい言い方になってしまう私と違って、雅臣の対応は完璧だ。嘘の関係を説明することにもためらいがないらしく、母に向けて優しい笑みを浮かべている。