一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る
母は美味しいものを食べることが好きだった。味や栄養バランスが完璧で見た目も華やかな食事が目の前に出されたら、食欲が湧くかもしれない。そう思っていたけれど、この病院の食事でもやっぱり残してしまうらしい。
好きなことややりたいことに対する意欲がどんどん薄れていっている。そんな母に喜んでもらえることは、ほかになにかある?
私にできることは?
これから目にするものは、本当に母の気持ちを沸き立たせることができる――?
廊下を進みながら不安がこみあげたとき、そっと背中に手が触れた。
となりを歩いている雅臣がまるで背筋を伸ばせというように、私の背をぱんと叩く。
そうだった。私が弱気になってどうする。
母がなにより望むのは、私が幸せでいることなのだから。
笑っていなきゃ。