一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る
私の記憶からも抜け落ちてしまっているその絵は、いったいどんな色彩で、どんなタッチで、この大きなキャンバスに描かれているのだろう。
使用人の男性が布に手を掛ける。するっとなめらかに落ちていく赤い幕の下から、父、瀬戸口アキラが残した作品が姿を表す――。
「これは……」
母が息をのむのがわかった。同時に、私の目もその絵に釘付けになる。
「アキラさんが、描いた――」
衝撃に目を見開きながら母がこぼした言葉に、自分の声が重なる。
「私……?」
そこに描かれていたのは、赤ん坊を腕に抱いて微笑む女性だった。
それは母であるはずなのに、まるで私だった。ボブヘアの私よりわずかに髪が長い程度で、あとは目もとも唇の形も、今の私にそっくりだ。
呆然としている私に気づいて、母が小さく微笑む。