一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る

 無計画に乗り込んできたことが今さらながら悔やまれる。無音の室内に自分の心臓ばかりが響いているみたいだ。

 できることなら逃げ出したかった。

 だけど、わかっている。

 もう、後には引けない。

 固まっている私を見て、その人は微かに口角を上げた。

「選べ。一億用意するか、それとも」

 地を這うような声に、体がびりびりと震える。室内は空調が保たれているのに、冷たいものが背中を流れ落ちていく。

 ゆったりと余裕をもって動く薄い唇に惹きつけられて、目が離せない。

「俺の妻になるか」

 低い声で言うと、その人は口元だけで微かに笑う。

 切れ長の目に鋭い光を湛えて、死刑宣告を行うように、傲慢な御曹司様は静かに口にした。

「ほかに選択肢はない。さあ、どうする?」


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