好きな人の物語
アメリカの大学を飛び級で卒業してから二年。
研修医期間も過ぎて新米医師として働いていたが
先日、四年ぶりに日本に帰国した。
「ん~、久しぶりだなぁ。」
雪那はそう言いながら空港で伸びをした。
飛行機のなかではあんまり気が抜けなかった。
飛行機が苦手なのもあるが、気圧が下がるため
喘息や不整脈の発作が出ないかヒヤヒヤした。
それでもなんとか無事に帰国することができた。
キャリーケースを転がしながら空港を出て
タクシーに乗り込む。
「お客さん、どこか旅行の帰りですか?」
「いえ、アメリカの大学を出て働いてたんです」
「あ、そうなんですか。お客さんあんまり美人
さんなんでモデルさんかなんかの芸能人かと思い
ましたよ。」
「ほんとですか?ありがとうございます。」
雪那はフワリと笑った。
目的地に着くと運転手に料金を払ってタクシーを
見送った。
今日から住むことになるマンション。
一等地に立てられたこのマンションは前は兄が
住んでいたマンションだ。
兄 も雪那と同じ医師だけと今は海外研修に行って
オーストラリアに居る。
何物にも縛られず自由な兄は日本に居ることの方
が少ない。
まあ、悪く言えば無責任。
代々医師の家系で父は東京大学医学部の教授。
母は50の若さで医師会会長。
サラブレッド中のサラブレッドなのだか
雪那も兄も特別気にしていない。
だけど周りがそう見ないのが二人には煩わしく
感じるのだが。