ハンブンコ
「ママ〜!タルト、まだあったよ〜」

写真を撮っていた私の耳に、幼い子どもの声が聞こえてくる。振り向けば、残り一つしかないタルトは買われていくところだった。

男性が来ても、買えるものがない。そう私が思った刹那に男性が入ってくる。見事なフラグだ。

「あれ?タルト……」

「申し訳ありません。先ほど、売り切れてしまいまして」

店員さんが申し訳なさそうに謝っている。男性の横顔は残念そうで、私は立ち上がっていた。

「あのっ!半分こしませんか?」

言ってから私は後悔する。どうして「あげる」じゃなくて「半分こ」って言ったんだろう。見ず知らずの人とタルトを半分こなんて……。グルグルと後悔が渦巻くが、言った言葉は取り消せない。

「いいんですか?」

意外にも男性が目を輝かせてそう言ってくれたので、私は安心しながらも頷く。店員さんに半分に切ってもらい、男性が私の目の前に座った。
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