負け犬の傷に、キス
「学校のうわさもひどくなってた。今日は逃げださなかったけど……ううん、また叱られるのが怖くて逃げだせなかったの」
「……俺が『一緒にサボる?』なんて言ったせいで……」
「サボったのは、わたしの意思。草壁くんのせいじゃないよ」
あぁ、こういうところ、年上だな。
八つ当たりしてもいいのに。
自分自身よりも年下の俺に優しくしてくれる。
「怖がらずに行動できればいいんだけどね……。今日も何もできなかった。立ち向かうのって難しいね」
困ったように笑ってた。
無理してるのがバレバレだ。
「立ち向かったって傷つくだけだよ」
そうわかってるはずだろ?
どうしてそこまで頑張れるんだよ。
津上さんは一瞬俺を見ると、涙の跡の残る目尻をやわく垂らした。
「昨日、草壁くんは、わたしだけで十分って言ってくれたよね」
うん、言ったよ。
紛れもない本心だった。
『わたしが今まで出会った中で、草壁くんが一番かっこいい!』
あの言葉がたまらなく胸に響いて。
弱っちい俺を、認めてくれた気がした。
たとえそれがたったひとりの想いでも、俺には幸せすぎたんだ。
「でもわたしは勘違いされたままなのはやっぱり嫌だよ。悔しいよ。わかってほしいって思っちゃう」