負け犬の傷に、キス



「草壁くん?」


「へ!?」


「大丈夫?」


「え、あ……うん、大丈夫。ちょっと緊張してるだけ」




手のひらから混乱してるのがバレてしまった。


ヘヘヘと笑ってみる。
下手くそか、俺!


ちょっと緊張?

緊張なんてもんじゃないよ!


気を抜いたら胃液をぶちまけそう。




ポン!と軽快な音が鳴った。

エレベーターの扉が開く。




「一番奥の部屋が、院長室だよ」




津上さんは何度か来たことがあるらしい。


エレベーターから院長室が見えた。

廊下を真っ直ぐ進んだ先に、他のとは明らかに違う扉がある。



……あそこか。



扉の前で深呼吸をする。

どちらともなく手を離した。


顔を見合わせ、津上さんがノックをする。



「はい、どうぞ」



その返事に扉を開けていく。




「……お父さん」


「夕日? 何の用だ」




部屋の奥にある机で、白衣の男性が資料を見ながらパソコンを操作していた。


あの人が津上さんの父親で、この病院の院長……。

想像通り真面目そうな人だった。



鋭い目が俺を捉えた。




「……隣の子は?」




早々にロックオンされた!!


すんごい威圧感……。

暴走族のソレとはまったく違う。


なんていうか……学校にいる超厳しい先生に説教されるみたいな。


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