負け犬の傷に、キス
「何の話かと思えば、どこぞの男を連れて言い訳か」
「ちが……」
「違います」
おびえる津上さんの肩を軽く叩き、一歩前に出た。
今ので頭が冷えた。
むしろカッと熱された。
「夕日さんが、あなたの娘が、せいいっぱい伝えようとしてるのに『言い訳』なんて言葉で流さないでください」
「言い訳でなければ……ざれ言か何かか?」
院長は長く息を吐きながら重々しく腰を上げた。
おもむろに近づいてくる。
ずっと視線で俺を射抜いてる。
俺だって逸らさない。
「夕日がわざわざ連れてきて、昨日のことを話したということは……夕日があんな真似をしたのは、きみが関係してるのか」
俺の前で立ち止まり、見下ろす。
右目の端に院長の手が迫り来るのが見えた。
――バシン……ッ!
「っ、草壁くん!!」
あー、痛いな。
久々にもろに食らった。
俺がビンタされることを選んだから、いいんだ。
「お父さん、なんで……っ」
「津上さん、俺は大丈夫だから」
血相を変えて取り乱す津上さんに、安心してほしくて、ジリジリ痛む頬をゆるめた。
さっきみたいにへたくそじゃないでしょ?
本当に平気だよ。
俺は傷に慣れてるから。
余裕しゃくしゃくと院長を見返す。
院長は不愉快そうに眉をひそめた。