負け犬の傷に、キス
「夕日に絡んでるという不良もきみのことか?」
「草壁くんは悪い人じゃない! 何度もわたしのこと助けてくれ……きゃっ!?」
「津上さん……!」
俺と院長に間に割って入ってきた津上さんを、院長は強引にたぐり寄せた。
抵抗もむなしく院長側に寄せられてしまう。
その拍子にバラが床に落ちた。
「とんだ悪い虫だな……」
一度じゃ無理だろうと予想はしていたけど、ここまでとは……。
そうとう嫌われたっぽいな。
一体どうしたら……。
不意に扉が勢いよく開かれた。
「失礼します!」
「不法侵入者はどこに!?」
げっ。警備員が2人も!
ここで来る!? 最悪すぎる!
ハッ! まさか……院長が机で何かしてたときに呼ばれた!?
「そいつだ。つまみ出せ」
「草壁くん……!」
津上さんを助け出そうと動いた矢先、がたいのいい警備員2人に背後からがっちりホールドされてしまった。
抜け出そうにも手足をつかまれ、びくともしない。
こうなったら警備員の顔面とみぞおちを――ってだめだめ!
傷つけるのはだめだって。
俺は、また……。
「二度と夕日に関わるな」
院長の目は最後まできつく、冷酷だった。
――バタン。
津上さんと院長だけが残された部屋は、異様に静かで寒々しい。
「夕日もいいな? 二度はないぞ」
「……ひどい。どうして何も聞いてくれないの……っ」
「無意味だからだ」
実の娘にも冷たく一刀両断する。
容赦なくバラを踏んづけて作業に戻った。
「とうぶん外出を制限する。学校以外はあまり外に出るな。買い出しは宵に行かせなさい。わかったな?」
返答はなかった。
赤く散った花びらは靴跡で汚れていた。