負け犬の傷に、キス


気づかれなかったみたいだな。よかったあ……。


平凡な容姿のおかげで影がうすいんだろうな。

嬉しいような、悲しいような。


い、いや! 今は喜んでおこう!



このままたまり場までスムーズに逃げられたら……




「……なーんて、できませんよね……」




路地裏を進み切った先で様子をうかがってみると、ななめ向かいにパトカーが停まっていた。


警察官が数人いる。

警戒してるようだ。



「う~む……」



警察官がいる方向に行きたいんだけど……。


行けなくはない。

ただリスクがありすぎる。



捕まったらそれこそ津上さんに心配かけて、しまいには「やっぱりひとりで頑張ります!」と見捨てられそう。


それはやだ! 断固拒否!!




「どこか行ってくれないかな……」




こんなところで足止めされてるわけにはいかないんだよ。


横にある細い道を行けば、繁華街の大通りに戻っちゃうし……。

どうにかして警察官の注意を違うところに向けるしかないか。



でもどうやって……。




「――何かお困りですか?」




突然うしろから声をかけられた。

やや高めの、声変わり途中の声。



パトカーに気を取られてたせいで気づかなかった……?

それとも……。


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