負け犬の傷に、キス
中学生の男の子はポケットから携帯を取り出し、誰かに電話をかけた。
「もしもし? 今どこにいますか? ……あ、近いですね。ちょっとお願いしたことがありまして。……ああ、ええ、見つかりました。その彼を助けたいんですよ。……はい、そうです。はい、お願いというのは……」
何を話してるんだろう。
用件を伝え終えると、男の子は携帯をしまいながらまた笑顔を向けてきた。
「これで大丈夫です」
「何をするつもりなの?」
「すぐにわかりますよ」
その笑顔はどういう意味なんだ……。
男の子に細い道のほうを覗くよう示唆された。
大通りに何かあるのか?
ちんぷんかんぷんなまま従ってみる。
しばらくすると、反対側の路地から誰かがやって来た。
「はぁ、はぁ……っ、助けて……!」
ふらついた体は大通りの真ん中でへたりこむ。
低めのトーン。乱れた長い黒髪。
ロング丈のワンピースは泥だらけだった。
「きゃああ!!」
「女の人が……!」
「何かあったのか!?」
「やば」
「うおっ、何なにー!?」
大通りが騒々しくなる。
行く手をふさいでいた警察官たちがあわてて駆けつけた。