負け犬の傷に、キス
*
「つっかれたー」
幹部室に入るやいなや、柏が黒のソファーにもたれた。
シャンデリアを点ける。
月明かりだけだった室内が眩しくなった。
「作戦うまくいくといいね」
薫は、赤のソファーで足を組む。
ついさっきまで広間で練っていたわりには、シンプルな作戦ができあがった。
博くんとユキを遅い時間まで付き合わせてしまって申し訳ないな。
「……まさかポニーテールと竹刀の人が、同一人物だったとは思わなかったよ」
白のソファーにちょこんと座った俺は、先ほどのことを思い返しながら含み笑いする。
作戦を立ててる最中
地図を見ながら道を確認していたら
『ひーふーみー……少なくとも6パターンの行き方があるな』
ユキがそう数えていて面食らった。
俺の思い過ごしじゃなかった。
望空ちゃんが目撃したポニーテールの男も
やっぱりユキだったんだ。
「たしかに考えてみりゃ、この時代にポニーテールの男なんかそうそういねぇよな」
言いながら柏は大きなあくびをする。
望空ちゃんに怪しい人物を見つけたと知らせた。
津上さんの家を聞くついでに。
前に送り届けたのは病院まで、と返答がきてちょっと焦ったな。
『では調べましょうか』
博くんが何やら携帯を操作して数分後、住所が判明してもっと焦った。
何をどうすれば住所がわかっちゃうんだ……。
恐ろしくて聞くに聞けなかった。