負け犬の傷に、キス



窓枠にはさめられたルーズリーフの切れ端。


カクカクした男の子の字。



――草壁くんからの、手紙。






「姉ちゃん、たまご焼きできたよ」




宵の声にハッとして見やれば、きれいにたたまれた黄色がお弁当箱をいろどっていた。


梅干しおにぎりを作りながら、上出来だと微笑む。




『……最年少で受賞した作品を舞台化ということですが、初めて舞台監督を務めるにあたって風都(カザト)監督は……』




情報番組のインタビュー。

じゅわり、と溶けるバターの匂い。


2人しかいないリビングダイニング。



カレンダーの今日の日付には、赤い丸がついてある。

両親の帰りが遅くなる印だ。


そこで初めて今日が金曜日だと気づいた。



曜日も把握してなかったなんて、今日のわたしはどうかしてる。


朝早いせい……じゃないんだろうな、きっと。ううん、絶対。




「夕日、宵、おはよう」


「……おはよう」




身支度を整えたお母さんとお父さんがやってきた。

既に朝食を並べてあるダイニングテーブルにつく。




「おはよ、母さん父さん。今日はコーヒー? 紅茶?」




アスパラガスをベーコンで巻き終え、宵はいつもの質問をする。


気分で毎朝飲み物が変わる。

今朝はどちらもブラックコーヒーらしい。


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