負け犬の傷に、キス
*
360度、黒くて、白い。
「双雷ってかっこいい人多いらしいよね」
「だから遊ばれてるんじゃん?」
「ふつうサボってまで遊ぶ?」
「かっこよくても怖いからムリ~」
「不良とか人生の負け組だしな」
「暴走族なんかと知り合いたくねぇー」
尾ひれのついたうわさも、やゆめいた評価も変わらない。
悪くなる一方。
黒く歪んだ顔。
白く冷えた目。
ここが白薔薇学園だからなおさらこうなんだろう。
だけどこれが正しいことだとはどうしても思えない。
思いたくない。
昼休みになったばかりでざわつく教室に耐えられずに立ち上がった。
ガタガタとイスがこすれる音がいやに響く。
周囲が一気に静まり返った。
今だ。言え。
言うんだ、わたし……!
「ち、ちが、う……っ」
思い描いた言葉の一片しか出てこない。
むだに吸い込んだ空気のはけ口はわかってるのに、いざ反論しようとすると頭が真っ白になる。
「え? なんて言った?」
「違うって」
「何が?」
「言い逃れしようとしてるんじゃね?」
クラスメイトがより黒く、白くなっていく。
その顔も、その目も、わたしをバカにしてる。
あんな一声じゃ届かない。
違うのに。
負け組なんかじゃ……っ。