負け犬の傷に、キス



『津上さんは今のままでもかっこいいし、強いよ。俺なんかよりずっと』



……これの、どこが。


草壁くんがそう思うならきっと
見栄っ張りなだけだよ。


だって、また、ダメだった。



次こそ、今こそ。そうやって意気込んでも、いつだって恐怖がじゃまをする。


いいかげん立ち向かってる“つもり”はやめたいよ。



カバンを手にして四面楚歌から脱兎した。

行く先は決まって保健室。



保健室の扉越しに中を確認する。


今日は生徒はいないみたい。

当番の委員の人までいない。




「し、失礼します……」


「あら、津上さん。こんにちは。どうしたの?」




保健室に入ると辻先生が温かく迎え入れてくれた。


以前と変わらず優しくて、うっかり泣きそうになる。




「わ、わたし……っ」


「何かあったのね」




全て言わなくても汲み取り、たおやかに一笑する。




「ちょうどよかったわ。今日当番の子が欠席で困っていたの。よければ手伝ってもらえない?」




わたしがここにいてもいい理由をくれた。


緊張がほどけていく。

ようやっと安心できた。




「まずは一緒にお昼食べましょ。話し相手が欲しかったの」



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