負け犬の傷に、キス


学校用のカバンに大事にしまっていた手紙を取り出した。


もう一度目を通し、そっと胸に当てる。



『迎えに行く』



ここに残るか、逃げるか。

どちらを選んでもきっと傷つく。



それなら草壁くんと一緒がいい。



わたしも、会いたいよ。





茜色の光が消えていく。



必要なものを詰め込んだ大きめのトートバッグに手紙を入れ、持ち手を肩にかけた。


窓下に用意していた靴を履く。



目覚まし時計が午後7時を示した。

覚悟を決めて窓を開ける。



これがわたしのできる、最大限の抵抗。




「津上さん!」




下から名前を呼ばれた。


驚いてすぐ下にある庭を覗けば……もっと驚いた。



草壁くんだ。


あの古着と丸メガネを身につけた
好きな人があそこにいる。




「待って、今……」


「草壁くんっ」




衝動的に身を乗り出していた。




「え? えっ!? ちょ、つ、津上さ……!?」




とん、と軽やかに窓枠を蹴った。


あとさき考えずに飛び降ると、草壁くんはあわてながら両腕を広げる。



なぜだろう。
少しも怖くない。



草壁くんにぎゅっとしがみついた。

それよりも強く抱きとめてくれる。



衝撃のあまり前方に倒れ込む。


草壁くんは尻もちをついても、腕を離さずにいてくれた。


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