負け犬の傷に、キス
「び……っくりしたあ……。津上さん大丈夫?」
「うん……。草壁くんは?」
「俺も大丈夫。一応ロープを持ってきてたんだけど……結果オーライかな。受け止められてよかった……」
草壁くんはわたしの乱れた髪を直すように撫でながら柔らかく笑った。
「あ、その服……同じだね」
うん、同じだ。
服も、気持ちも、全部。
「迎えに来てくれてありがとう。大好き」
気持ちを抑えきれなくてもう一度抱きしめた。
額にチュッとリップ音が落ちる。
「一緒に逃げよう」
顔を上げれば、茶色い瞳が強く輝いていた。
立ち上がって手をつなぐ。
「逃げるってどこに……」
「俺たちの居場所に」
「居場所……?」
意味を読み取れないまま分厚い手を握り返した。
どこだっていい。
草壁くんと一緒なら。
信じてついていく。
玄関側に回ると、小さな女の子が待機していた。
「あっ、希勇さん! お姉さん!」
「望空ちゃん!」
「家から出られたんですね! よかったです!」
以前ナンパされてたところを助けてくれた、あのときの女の子だ。
どうしてここに……?
あの子も手紙に書いてあった
『協力してくれる仲間』なのだろうか。
「望空ちゃん、あとは頼んだよ」
「お姉さんの弟さんにうごきがあったらインターホンをおして足止めすればいいんですよね?」
「うん、よろしくね」
「はい、まかせてください!」
女の子は自分の胸をどんと叩く。
頼もしいな。
感謝をしたら、あどけない表情を咲かせた。
辺りを見渡したあと、草壁くんと走り去った。
雲に隠れた月が
とても、とても、きれいだった。