負け犬の傷に、キス
●不和
――バタン……。
重々しい扉を閉めた。
洋館に到着……!
追手が来てた様子はなかった。
薫たちから連絡がないということは、現時点で危機はない。
……に、逃げ切れ、た?
津上さんをさらった旨をメッセージで送信した。
下っ端たちは繁華街の巡回で出払っていて、洋館内には俺と津上さんだけ。
気を張る必要がなくなって、変装用につけた伊達メガネを外し、へたりこんだ。
ダサいな、俺……。
「……ここまで来れば、もう安心だよ」
「ここって……」
「双雷のたまり場だよ」
めったに他人の立ち入らない、俺たちのテリトリー。
逃げ場には最適なんだ。
「わ、わたしが入ってもいいの?」
「あっ、不良ばっかで怖い!?」
「ううん! 怖くない! ……けど、わたしは双雷の仲間じゃないのにいいのかなって」
ぴかぴかに掃除したばかりのホールの床を見つめながら、津上さんは心配そうに体を丸めた。
落ち着かないのかもしれない。
ここは津上さんの知らない世界だから。
「いいんだよ。津上さんは特別」
「!」
「それに、ここ以上にいい逃げ場ないよ」
へらりとほころんだら、津上さんは赤らみながらはにかんだ。