負け犬の傷に、キス
丁寧な言葉づかい。
90度に曲がった体。
育ちのよさが言外から伝わってくる。
「言われなくてもやってやるっつの」
「あんたのためじゃなくキユーのためだから。誤解しないでよ」
つんけんとした柏と薫に前よりトゲがないのは気のせいじゃない。
「はい! ありがとうございます!」
それを津上さんも感じて、嬉しそうに顔を上げた。
「あっ、みなさん夕ご飯は食べました?」
「そういえば食べてなかったな」
「それじゃあわたし作るよ。お礼もしたいし!」
すっかり夕飯を忘れてた。
時刻はもうすぐ8時になる。
言われてみればお腹が空く時間帯だ。
「じゃあ……お願いしていい?」
「うん! たくさん作るね」
やる気満々な津上さんを、広間の隣の部屋へ案内した。
暴走族のたまり場にしては立派な調理場。
料理道具や調味料はひと通りある。
冷蔵庫には少しだが食材があまっていた。
「好きなように使って」
「ありがとう」
「こちらこそ。期待して待ってる」
「……き、期待はしない方向で」
津上さんは低姿勢を貫くけれど、この前食べたお弁当すごくおいしかったし期待してしまう。
何を作ってくれるんだろう。
楽しみだな。