負け犬の傷に、キス
あとで説明?
やけにもったいぶるな……。
交換条件と何か関係がありそう。
「俺への質問はそんだけか?」
「あ、う、うん……」
「んじゃ、次は博だな」
「なんでもお答えしますよ」
まだモヤモヤする……。
解消されないまま、博くんの番。
「博くんに聞きたいことは、ふたつ」
「なんですか?」
「ひとつは、なぜ俺について探っていたのか。もうひとつは、俺について探るためになぜ津上さんに近づいたのか」
右の人差し指、中指を順に立たせて尋ねる。
目の前の鉄壁の笑顔は崩れなかった。
「お兄さんを探っていたのは、彼女さんにウザ絡みをしていた男たちと戦っていたからです」
「へ?」
「初めは、男たちの知り合いかと思ったんですが、盾突いていたし、うまくやり過ごしていたので何者なんだろうと気になりまして。男たちと知り合いだったら標的になる可能性が高くなるので、早急に探りを入れてみたんです。
あのとき、顔がよく見えていたら探る必要もなかったんですが」
博くんはあのとき――津上さんがナンパされたとき、近くにいた……?
見てみぬフリをしていた通行人のひとり……では、ないな。
野次馬らしい野次馬はいなかった。周囲の人は巻き込まれるのを避けていた。
まじまじと見物する物好きがいたら絶対に覚えてる。