負け犬の傷に、キス
「んで? 希勇が標的じゃねぇってわかったら手のひら返しか?」
「キユーにその標的とやらの始末を任せる気じゃないでしょうね」
「……ご名答。まさしくその通りです」
“野犬”と“セレブ犬”の責めるような眼光を、かたくなな笑顔ではね返した。
「実は今人手不足でして」
「ひとでぶそく?」
「はい。人手不足」
どこかの経営者か何かかな?
「お兄さんのような正義感が強く、実力もある方に手伝ってもらいたいんです」
「その……標的の始末を?」
「はい。今回の作戦で十分に信頼に足る人とわかりましたので」
「は、はあ……」
吐息だかあいづちだかわからない声が漏れた。
それが博くんとユキの協力してほしいこと?
始末って物騒すぎないか?
俺が、俺の手で、誰かをそんな物騒な目にあわせる……なんて、ムリ、だよ。
「えっと……期待を裏切るようで申し訳ないけど、始末するのが交換条件なら俺には難しいかも」
だって俺は“負け犬”だし。
傷つけるのは怖いよ。
「始末、と言うと聞こえが悪いですよね。訂正すべきでした。始末までしなくても引っ捕らえられればいいんです」
「だから無理にぶっ殺さなくていいんだよ。結果的に警察に逮捕されりゃ問題はねぇ」