負け犬の傷に、キス
●箱庭
土、日、月……
タイムリミットが刻々と迫ってくる。
まだなんにもできてない。
津上さんのご家族に理解してもらう方法も、博くんとユキとの交換条件も、何ひとつ進展していない。
これはまずい。
交換条件のほうは、協力してほしいときに博くんから連絡がくるはずなんだけど……。
土曜日に引き受けて以来、一度も連絡がない。忘れられてる……わけじゃない、よな?
人目の多い日中の外出は、神経すり減らし
洋館では、津上さんと優雅に過ごすだけ。
火曜日の今日も……
「……ん、おいしい!」
午後3時。
幹部室で津上さんとまったりティータイム。
津上さんが淹れてくれたお茶と手作りマフィンを味わってる。
のんびりしてるだけじゃないよ!
ちゃんと平和的な解決法を考えてるよ!
……って、俺は誰に言い訳をしてるんだ。
「よかったぁ……。マフィンはプレーンとココアとキャラメルの3種類作ったから、好きなの食べてね」
ふたりきりの幹部室に甘い匂いが舞う。
白のソファーに隣り合わせでティータイムをしてるのは、津上さんの発案。
『もう一度院長に会いに行っても今度は門前払いだろうし、手紙を送っても破かれたら……うーん……』
と、平和的な解決法のアイデアが浮かばず、行きづまっていた。
そこで津上さんが『一旦休憩しよ』と、3時のおやつの準備をしてくれた。
大量に作ってくれたマフィンは、1階の遊戯室にいる下っ端たちにもおすそ分けしたらしい。
俺のわがままで津上さんをここに置くのを、下っ端たちがよく思っていないんじゃないか懸念していたが、仲良くしているようでほっとした。