負け犬の傷に、キス



「1階にいた人たちもサボりなの?」


「サボってるヤツもいるよ。定時制だったり、そもそも通ってないヤツとかも」


「そうなんだ……。双雷の中でもいろんな人がいるんだね。……世界って広いなぁ」




不良と呼ばれるヤツらは、たいがい個性的だ。


薫みたいな切れ者や、柏みたいな異端者。

俺みたいな“負け犬”もいる。



これだけそろえば退屈はしない。

なじむのに苦労はするけれど。




「少しは慣れた?」


「全然。ひとつひとつ知っていくのでせいいっぱいだよ」


「名前はどう? 覚えられた?」


「1階にいた人たちはまだまだだけど、わたしを助けてくれた人たちの名前は覚えたよ」




土曜日、津上さんの手料理を食べながら自己紹介をした。


軽く、本当に軽く。

下の名前と年齢を教えただけ。




「カオルさん、ビャクさん、ハクくん、ユキさん……で合ってる?」


「うん、合ってるよ。じゃあ俺は?」


「へ」




自分で自分を指差し、いたずらっ子みたくニヤつく。


隣のつぶらな瞳はきょとんとして、ゆらりゆらり左右に迷わせる。




「く、……き、きゆう、くん」




こ、これは……やばい。

ズキュンときた。


俺の下の名前って、こんなにかわいい響きしてたっけ?




「名前で呼ばれるの、なんかいいね」


「き、希勇くんも……呼んで?」




さっきからかわいいが渋滞してる。


呼んでって何。おねだりがかわいすぎる。

昨日より好きになる。しんどい。




「夕日ちゃん」




見つめ合っていたらお互い赤面した。


名前を呼ぶたび「好き」ってささやいてるみたいでドキドキする。


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