負け犬の傷に、キス


津上さ――夕日ちゃんは単語帳で顔を隠す。

それすらかわいい。もう全部かわいい。



ひらり、と単語帳から何か落ちた。




「これは……?」


「あっ、そ、それは……!」




拾ってみれば、長方形型の小さな紙だった。


その紙にはさんで、真っ赤な花びらが5枚、花の形になるよう貼られてある。




「草……き、希勇、くんがプレゼントしてくれたバラを、お父さんに踏まれちゃって……。せめて形に残せないかなって思って、きれいな花びらを集めて押し花の栞にしてみたの。学校にも持って行きたくて単語帳に……」




悲しむように、恥じらうように
きゅっと口の端を締めて身を縮こませる。


うつむく夕日ちゃんの頬に優しく触れた。




「……ありがとう」




無性に泣きたくなった。




――ガチャリ。


扉の取っ手が回った瞬間、手を引っ込める。




「やほ~。来たよ~」


「うまそうな匂いがする」




学校帰りの薫と柏が幹部室に入ってきた。

来るの早くない!?



ゆるんだ涙腺がすぐさま張り直した。

あ……っぶな。あとちょっと早かったらまた顔から炎技繰り出すところだった。




「なんだ、今日はイチャイチャしてなかったんだね」


「き、今日はって、いつもしてないだろ!」


「「してる」」




仲いいな雅兄弟!!


食い気味に反論され押し黙る。

バレバレでした。




「ふたりして好き好きオーラ出しすぎ。ウザい」


「うっ……」


「何か思いついたのか?」


「…………いえ、何も」


「ただのアホじゃねぇか」


「イチャイチャしてる暇あるならさっさと考えなよ」


「ごもっともです……」




薫と柏にココアとキャラメルのマフィンを食べながら説教をされ、正座をして反省した。



――♪♪


ガミガミと浴びせる厳しい言葉にまぎれて、ひとつの通知音がポケットの中から鳴った。


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