負け犬の傷に、キス
*
水曜日に変わる、1時間前。
俺は切羽詰まっていた。
「やばいやばいやばい……!!」
ネオンの光る繁華街を猛ダッシュで通り過ぎ、歩道橋を渡る。
入り組んだ道に駆け込んだ。
野良猫のたまる細い路地におじゃまして、奥にあった大きいゴミ箱のふたを盾に使った。
赤いサイレンが路地を横切っていく。
「……はあ、ギリギリセーフ……」
にゃあ~にゃあ~!
ガルルル……!
シャーッ!!
ひと息ついていたら野良猫たちに怒られた。
足首を引っ掻かれる。
夜道にこだまする鳴き声に、サイレンの音がまたこちらに近づいてくる。
「痛っ! 痛いって! ご、ごめんよ猫さんたち! おじゃましましたああ!!」
やり過ごしたと思ったのに!
再び窮地!!
途中まではよかったんだよ。
アフタヌーンティーを楽しんでいたら、博くんから連絡が来ていたことに気づいた。
捕まえてほしい標的の写真が3枚と、印のついた地図が送信されていた。午後8時、3人の標的が印のついた場所に行く情報をつかんだらしい。
俺は夕飯を食べてから指示通りに動いた。
行ってみたらちょうど薬を使ってるところだった。持ってきたロープで急いで縛り上げ、匿名で警察に通報した。
……そう、ここまでは順調だったんだ。