負け犬の傷に、キス



バット男の腕はそのまま下ろされる。


右肩にぶつかった金属バットを両手でつかんだ。



痛い。
どこもかしこも。

一番を決められないくらい痛い。



目の前のこけた顔は、ちっとも痛くなさそうでムカついた。


笑うなよ。

笑いごとじゃないだろ。



傷つけるのは、楽しいことじゃない。




金属バットを奪い取り、振りかざし――ピタリ、と身体の機能を停止した。


赤い鮮血がひと粒したたり落ちる。



俺は。

……俺、には。




視界の端にイカれヤローを捉えた。


車いすや絵本をじぃっと凝視しニヤリとした。

イカれヤローの足が持ち上がっていく。



おいおい! まさか踏みつけようとしてるんじゃないだろうな!?


踏むな踏むな!
頼むから壊さないでくれ!



とっさに金属バットでバット男の足を払った。


金属バットを遠くに投げ、イカれヤローを地面に押し倒す。



ギョロリとした4つの眼が俺を射る。




「……そ、そうだ、俺を狙え」




看護師の女性や男の子が助勢を呼んでくれていても、いつ来るかわからない。


こうなったら長期戦だ。

どっちか先にぶっ倒れるまで。




「ひゃっはー!」

「失せろおお!!」



「おぇ……っ、く、」




金属バットにいきなり胃を蹴られた。


イカれヤローが俺のこめかみをわしづかみする。

その手をはぎ取り、距離を取った。


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