負け犬の傷に、キス



「えーっと……失礼します!」




逃げよう! 逃げるが勝ち!




「待て」




条件反射で振り返ってしまった。

素直に待っちゃった俺のバカああ!!



今の院長の声、暗かった。


もしや怒ってる!?

津上さんを誘拐したから?
俺が悪者のほうだと誤解してたり!?


きっと責められ……




「ケガ、してるだろう」




……て、ない?


予想外すぎてすぐに理解できなかった。


ケガ?

って、頭のこと?




「え、あ、あー……こ、このくらいへっちゃらですよ」


「何を言ってる。悪化したらどうするんだ」


「い、いえ、本当に大したことないんで……」


「それのどこが大したことないんだ。いいからわたしの部屋に来なさい。手当てをしよう」




俺のこと嫌いじゃなかったっけ?

誰が相手でもケガしてたら手当てしてくれるのかな。



そういうとこ、夕日ちゃんに似てる。


あ、逆か。院長に夕日ちゃんが似てるんだ。



やっぱり親子なんだな。




院長は懐中電灯を拾うと、気を失ったままの男2人に寄っていった。




「あ、危ないですよ!?」




俺の制止を無視して、男2人の容姿をライトを当てる。


頭髪、顔色、眼球、口内の順に観察していった。




「……ドラッグか」




ちょっと診ただけでわかるんだ。すごい。




「知り合いなのか?」


「違います!!」




全力で否定した。

俺は被害者です。



数分後、警備員が遅れて駆けつけた。


絵本と薬ケースにはさほど傷がついていないようで安心した。


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