負け犬の傷に、キス






「楽にしていなさい」




そう言われましても……。



背もたれのない丸いイスに、ちょこんと座ってるだけで、心拍数がバクバク上がってくる。


つい先日追い出された院長室で、楽になんてできっこない。

今は体の傷より心臓が痛い。



早く帰りたい……!



院長は、棚から取り出した救急箱を机に置くと、俺と対面になる形で腰かけた。


至近距離だし、緊張でどうにかなりそう。

楽とは一体……。




「ケガしてるのは頭だけか?」


「ぎゃっ!」


「ぎゃ?」


「あのっ、そ、その……はいそうです!」




アホ丸出しなリアクションをしてしまった……。


ぎゃって何だよ、ぎゃって。


ないも同然な好感度が下がる一方だよ。

気をつけよう、うん。




「ウソがヘタだな」




半分呆れたように細められた目は、今日は不思議と冷たくない。




「上の服を脱ぎなさい」


「い、いやケガは……」


「脱ぎなさい」




有無を言わさない威圧感は変わってない。


本当に大丈夫なんだけどな。

しぶしぶ上半身をあらわにした。




「……どうしたんだ、その体は」




院長がわずかに狼狽してるのが伝わってきて苦笑するしかなかった。


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