負け犬の傷に、キス
そりゃ驚くよなあ。
平凡な高校生だったらこんな体してない。
こんな、傷だらけの体。
男2人につけられた傷だけじゃない。
ケンカの古傷が数え切れないほど刻まれてる。
「あ、あはは……。 一応不良ですからね。みんなこんなもんですよ」
「痛みは?」
「ほとんど“痕”なので。痛くありません」
傷痕だけが残るたび頑丈になっていく。
内側はボロボロなくせに。
「……青く腫れてるところはさっき痛めたのか」
「え? 青く腫れてる?」
体を見てみたら右肩とへその上が変色していた。
げっ、アザになってたのか。
どうりで鈍い痛みが続いてたはずだ。
「どうして初めからやり返さなかった」
ほとんど血の止まったこめかみ上に、白いガーゼを当てられた。
白衣を着た医者が暴力を推奨するって、なんだか奇妙だな。
「い、院長がそんなこと言っていいんですか……?」
「正当防衛だろう」
ガーゼを当てる圧が強まる。
苦々しくなった院長の顔にシワが増えた。
「……お、れは、自分が怖いんですよ」
「わたしはきみよりドラッグのほうが怖いがね」
あからさまな作り笑いに感情なく返された。