負け犬の傷に、キス
ガーゼを自分で押さえるよう指示すると、院長は室内にある水道や冷蔵庫から氷水を用意した。
氷水の入った青い袋を2つ手渡される。
「それで冷やしなさい」
朱色のにじんだガーゼを外し、右肩とみぞおちを氷水で冷やす。
院長は頭部の傷口を診察してから、軽く健康診断をした。
「……あの」
「なんだ」
「どうして院長はひとりであそこに?」
「患者から聞いたんだ。病院裏で男2人が暴れていると」
「警備員に任せればよかったじゃないですか。院長自らなんて危険すぎますよ」
院長があんな無謀な真似をするとは思わなかった。
もしかしたら俺みたいな目に遭っていたかもしれないのに。
「わたしにはこの病院を、患者を、守る義務と責任がある」
重たい言葉をさらっと言うんだなぁ……。
こんな夜更けまで働いて、俺なんかの手当てをしてることに、これっぽっちも違和感を覚えてなさそう。
わかりやすく真面目で
わかりにくい熱情を持ってる人。
「院長ってもっと冷たい人だと思ってました。でも、違ったんですね。さっきも、本当は俺が暴れた犯人の可能性だってあったのに」
誤解を解くまでもなかった。
初めから信じてくれていた。