負け犬の傷に、キス



「暴れていたら、わたしを助けていないだろう」


「あのときだけ善人ぶったのかもしれませんよ?」


「あの男たちの異常さを見ればわかる。……それに言ったはずだ。きみはウソがヘタだと」




俺にキチガイ役はそぐわないらしい。


てか、俺、そんなにウソへた?



院長は俺の頭に包帯を巻いていった。

その手が不意に遅くなる。




「……きみこそ、どうして助けたんだ」


「え?」


「きみには義務も責任もないだろう?」




どうして……どうしてか……。

理由……うーん、難しい。


傷つけたくなかった。
守りたかった。


それしか考えていなかった。




「……憎く、ないのか」


「憎い? 俺が院長を? なんでですか!?」




院長が俺を、と言うなら、心当たりしかないけれども!




「娘と引き裂いたんだぞ。……まあ、どっかの誰かにさらわれてしまったがな」


「そ、それは……か、監禁するとは思わなくて、いたし方なく……」


「監禁などしておらん」


「ひゃいっ! す、すみません……!」




思わず自首し、ざんげしてしまった。

彼女の父親の迫力に負けた。無念。




「で、でも、かんき、ん……じゃ、ないんですよね、はい。えっとぉ……て、手荒なことなんてしなかったら、俺は……俺たちは何度だって会いに行ってましたよ」


「なぜ……」


「院長に夕日ちゃ……さんの思いをわかってほしいからです」


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