負け犬の傷に、キス
「……夕日に伝えてくれ。そろそろ家に帰ってこい、と」
「ええっ!?」
た、単刀直入に引き裂こうとしてる!!
こうなるのは予想していたけど、唐突! ドストレート!
とにかく心臓に悪い。
だけど……もっとキレられると思った。
それこそ、またビンタでもされるくらい。
「母さんと宵が心配してる。家事も宵だけではまだ不安だ。……夕日の存在に助けられていたと痛感したよ」
院長はいきどおってはいなかった。
むしろとても穏やかだった。
院長が夕日ちゃんをどう思っているのか、簡単に汲み取れる。
だって院長の机に大事そうに置いてあるから。
ピンク色の小花柄のハンカチが。
「警察にはわたしから不問にするよう頼んでおく」
パタンと救急箱のふたを閉めた院長は
俺を一瞥した瞳を伏せ
ほんの小さくほころんだ。
「お、お父さま……!」
「お父さまと呼ぶな。気色悪い」
「すみませんっ!!」
違った。間違ってた。
引き裂こうとしてなかった。
院長は歩み寄ろうとしてくれてるんだ。
「……夕日の言っていたことは、本当に言い訳でもざれ言でもなかったんだな。わたしも病院も、きみに――草壁くんに助けられたよ。ありがとう」
「!!!」
「どうやら草壁くんはわたしの知る不良とは違うようだ。すまなかった」
「お、俺のほうこそ! 手当てしてくださってありがとうございました!」
名前……覚えてくれてたんだ。
すんごく嬉しい。めちゃくちゃ感動してる。
バッドエンドなんかじゃない。
思いがけない最高のハッピーエンド。
そう信じてるのは俺だけじゃないよな?