負け犬の傷に、キス



「希勇くん、望空ちゃん。こんにちは」




夕日ちゃんの手前で急ブレーキをかけ、望空ちゃんは軽くあいさつを返した。


お互いの名前を知ったのは、1週間前。夕日ちゃんが自宅に帰ってからのようだけれど、本当の姉妹みたいに仲がいい。


面倒見のいい姉と、人なつっこい妹。

俺のいやし。




「あたし、先に中に入ってますね!」




その場で駆け足を続けながらそう言うと、望空ちゃんは扉を重たそうに開けた。




「早く来てくださいね!」




ギギギと閉ざされ、夕日ちゃんとふたりきり。




「……気を利かせてくれた、のかな」


「……かなあ?」




なんだか照れくさくなる。

ぐへへ、なんていびつな笑い方をしてしまった。気持ちが悪すぎる。




「今日はね、いちご大福とムースを作ってきたの」


「ほんと!? やった!」




胸元まで持ち上げられたカゴバッグから甘い匂いがする。



院長の理解を得られて以来
2日に1回のペースで、夕日ちゃんはお菓子を持って遊びに来てくれる。


薫と柏は相変わらずだが、下っ端たちは喜んでる。それは夕日ちゃんをなのか、お菓子をなのか。前者だったらどうしよう。



さすがに制服だとやゆがひどくなりそうだから、私服に着替えてから。


夏もシミラールックしたいね
あの古着屋行きたいね

そう先日話したっけ。ぜひとも実現させたい。


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