負け犬の傷に、キス
こうしてなんてことなく夕日ちゃんが自分の足でここに来られて、未来の話をできるのって、実はものすごく特別なことなんだよなあ。
院長だけでなく夕日ちゃんの母親も許してくれたおかげ。
あの水曜日の早朝、訪問したとき。
院長よりも母親のほうが怒っていた。
俺が何か言おうとするだけで癇癪を超こし、泣きながら怒鳴られた。
それにつられて、弟の宵くんも涙をたたえ、夕日ちゃんの服の裾をきゅっとつかんで離さなかった。
覚悟はしていた。
もう土下座するしかないと勇気を出そうとしたら、夕日ちゃんに先を起こされたんだよね。
『ごめん、ごめんねお父さんお母さん、宵もごめん。……でもね、希勇くんはわたしを助けてくれたの。何度も救ってくれたの。
お願い、お母さん。不良なんて先入観はやめて。希勇くん自身を見て。希勇くんは本当にいい人だよ。きっとお母さんもわかる』
院長は俺が説得したから、自分は母親を、と、家に帰る前から意気込んでた。
それから『草壁希勇がどれだけいい人か』のスピーチが始まった。
唐突に。玄関で。俺の前で。
10分以上も。
いや恥ずい。ふつうに照れる。
白薔薇学園のスピーチ力やばい。
夕日ちゃんの母親も、癇癪を起こすどころじゃなくなった。ぽかんとしながら『……う、うん?』と頷くほかなかった。
夕日ちゃんのここぞとばかりの押しが強い。
結果、半分ごり押しで認めてもらえたのだ。
「……希勇くん? どうしたの? 顔赤いけど」
「ぅえ!?」
「上?」
「い、いや、その、ちょっと、うん……」
思い出したらまた恥ずかしくなってきた……!