負け犬の傷に、キス



――コンコンッ。



ノックが響いた。


返事をすると、夕日ちゃんが銀のトレーを持って入ってくる。




「こんにちは。飲み物淹れてきました。お菓子もあるのでよければどうぞ」




薄ピンク色のプラスチックの器に入ったムース。
大皿に乗せられたいちご大福。
人数分のアイスカフェオレ。


テーブルに並べられてすぐ、ムースを一口すくった。

チョコレート味だ。




「おいしい! 甘さと苦さがちょうどいい」


「……ん、たしかに。味はいいね」


「俺はいちご大福!」




甘いものに目がない俺と薫と柏に相反して

望空ちゃんはグラスの中で転がる氷を眺めるだけ。




「望空ちゃん? どうしたの?」




夕日ちゃんが不思議そうに顔を覗く。

望空ちゃんはただうつむいていた。



そうすぐに俺たちみたいに切り替えられないよな。


俺のことを守ろうと、大変大変!って走ってきてくれたくらいだし。

不安でたまらないよな。


俺もだよ。



でも俺はくさっても双雷の総長だから。


簡単に殺られたりしないよ。




「望空ちゃん、大丈夫」


「き、ゆう、さん……」


「ほら、一緒にムース食べよ」




大げさなほどおいしそうにムースを食べて破顔する。

安心したように望空ちゃんは明るく返事をした。




「あ、わたしそろそろ帰らないと」



ムースを平らげると、夕日ちゃんが時間を確認してあわてだす。




「え! 来たばっかりなのに!」


「明日テストあるから」


「忙しそうなのによく来たね~?」


「少しでも希勇くんに会いたくて」




意地悪な薫に、微動だにせずはにかむ。

夕日ちゃん、ほんと強くなったな……。




「じゃあ俺、途中まで送ってくよ!」




純粋に一人は危険なのもあるけど、俺も一緒にいたい気持ちのほうがでかい。


ちょっとでも一緒にいる時間を長くしたい。




「早速標的にケンカ売られたりすんなよ」




両手にいちご大福をつかんでる柏に忠告された。


そ、それはないと願いたい……!

万が一のことを考えて注意深くいこう。


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