負け犬の傷に、キス






「……甘ったるい」




俺と夕日ちゃんのいなくなった広間で
薫はチョコレート風味の吐息をこぼした。


卓上には氷だけが残ったグラスがひとつ。

グラスの外側に水滴がポタポタしたたる。




「おふたりラブラブですね」


「目障りなだけだよ」


「ほんとうぜぇ」




ムースといちご大福の糖度をものともしない薫と柏に、望空ちゃんはクスクス笑ってしまう。




「希勇さんあいされてますね」


「……ノアチも憧れてるじゃん」


「はい、あたしも総長をあいする一人です」




望空ちゃんの笑顔が伝染していく。


気づいたらムースといちご大福はなくなっていた。




「さっき希勇さんはだいじょうぶって言ってましたが、本当にだいじょうぶなんでしょうか」




多少は不安を取り除けたが、全部はムリだったようで。

おずおずと望空ちゃんの本音が吐き出されていく。




「あたしまだ希勇さんがちゃんとたたかってるところ見たことないので……ちょっとこわいんです。そうちょうだからしんぱいしなくてもいいはずなのに」


「見たことないのはノアチに限ったことじゃないよ」


「え? そうなんですか? じゃあいつたたかうんでしょう……。夕日さんの前では本気を出すんですか?」


「……出さねぇんじゃねぇか?」




ガリッ、と柏は奥歯で氷を噛み砕いた。


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